運動習慣によるADHD脳の症状改善について

SAC’s blueのきゃのです。

『運動がADHD脳の症状改善に良い』という話は聞いたことがあるかと思いますが、実際にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

コーチング中でも質問やトピックに運動習慣が出てくることも多く、ここでは運動がどうADHD脳に作用するのか、どのような運動が最適なのか、運動習慣を生活に取り入れる方法などを解説していきます。

目次

運動によってADHD脳が改善する仕組み

ADHDの脳内ではドーパミンなどが不足

人間の脳内の神経細胞はシナプスと呼ばれる結び目を介して、互いに結合して神経回路を形成しています。

シナプス前部の神経細胞から放出される神経伝達物質が、シナプス後部に存在する受容体に結合することで、情報伝達が行われます。

ところがADHDの方の脳内では、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の不足によって、シナプス間の情報伝達がうまく行われず、前頭葉の機能低下が生じ、実行機能の障害や「不注意」「多動」「衝動」といったADHD症状が引き起こされます。

(神経伝達物質のノルアドレナリンはドーパミンから変換されてつくられるため、脳内でドーパミンが不足するとノルアドレナリンも不足する傾向になる)

運動習慣によってドーパミン放出が一時的に促進される

ADHD脳に運動が良いとされる理由は、運動を行うとドーパミン放出が一時的に促進され、前頭葉などの脳機能を改善することができるからです。これは多くの論文でサポートされています。

もちろん、脳機能を改善する手段としては薬物療法もありますが、副作用が強くて服用を継続することが困難な場合なども多く、必ずしも望ましい手段ではありません。

運動であれば副作用の心配もなく、生活習慣の一部に取り入れることで自然にADHD症状を改善する手段となるため、多くのADHDの支援機関で取り入れられています。

(ADHDの薬の作用/副作用については以下のページで詳しく解説しているので、こちらもご覧ください)

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また、運動による脳機能の改善、実行機能の向上は健常な方でも効果はありますが、ADHDの方々は元々がドーパミン不足に陥っているため、より高い効果(変化)が見込まれる、というのが私の理解です。

どれくらいの時間の運動が適切か

推奨されるのは10~30分ほどの中強度の有酸素運動

10~30分ほどの中強度の有酸素運動で実行機能や心理面に良い影響があったという文献がほとんどです。

ADHD当事者と健常な対照者の成人が23人ずつ参加した研究では、30分の中強度の自転車運転後、ADHD当事者群において反応時間の有意な改善、ならびに認知機能の向上が特に顕著であったことが示されました。(Aylin et al.)

また、ADHDの子供を対象とした研究では、短時間の身体運動(10分)が認知機能や注意力、作業記憶、抑制制御を向上させることが示されました。(Hannah et al.)

ADHD研究の権威であるハロウェル先生の著書「ADHD2.0」 の中でも、過去の研究において20~30分の適度な強度の運動によって、反応速度や正確性、集中力の向上などが認められたことが記されています。(7章「Move to Focus, Move to Motivate: The Power of Exercise」を参照 )

2025年現在、様々なホームページで引用されているNational Taiwan Universityの論文でも、30分程度有酸素運動によって認知機能の一時的な改善が示されているようです。

運動によるADHD症状改善の『一時的な効果』と『長期的な効果』

ここからはきゃの個人の見解も含まれるので、転載しないことを推奨します。

ADHD症状の長期的な改善効果を認めた論文は見当たらない

運動療法による脳機能の向上が認められるのは、先に紹介した論文をはじめ、いずれの論文においても「運動直後の一時的な効果」でした。

長期的な効果については、こちらの調査が不十分な可能性もありますが、論文は見当たりません。

生活習慣に運動をうまく取り入れることで『長期的な効果』を実現

しかし、運動によってADHD症状改善の長期的な効果が見込まれないかというと、そうではなく、「毎朝の日課のランニングのあとに仕事に取り掛かる」、「学校の授業の初めに体を動かすワークを取り入れる」など、運動による一時的な脳機能改善効果を上手く生活習慣に取り入れ、継続的に運動を行うことで、長期的なADHD症状の改善効果を実現できます。

教育現場では実際に、ADHDの子どもに対して継続的な認知力向上や落ち着きを持たせるため、運動療法を取り入れています。

またADHDコーチング界隈では有名な話として、ある教授がケガで日課のランニングをやめたら職務能力が下がりADHD傾向が顕在化し、ADHDコーチングや薬物治療を受けるようになった。しかしケガが完治し運動を再開したらADHD症状が改善し、薬も必要なくなった。運動習慣がADHD症状の改善に大きく寄与していたことが判明した。という報告もあります。

運動習慣をうまく生活に取り入れるには

自分が無理なく取り入れられる方法を見つける

ランニング、エアロビクス、自分の好きなスポーツなど運動の種類は色々あると思いますが、一番は自分が無理なく生活に取り入れられる運動習慣を見つけることです。

自分の好きな運動や丁度良い時間があれば理想的ですし、逆にスクワットなど家でできる軽い運動を短時間取り入れることでも十分効果はあります。

一方で、ADHDコーチング的に言えば、興味(interest)を持てない運動、目的や意図(intention)のない運動、取り組むことにためらいが生じるような運動、は長続きしないと考えています。

ADHDコーチング的 運動習慣のすゝめ

ADHDコーチングでは、ADHD脳を『興味と意図があれば爆発的に実行機能を発揮するユニークな脳』と捉えています。

そのため、クライアントが自分の理想の運動習慣を見つける・取り入れることを目的にセッションに来て頂いた場合は、『その運動習慣に対してどんな興味を持てるか』『どんな目標をもっているか、どんな改善効果を期待しているか』などを問いかけるようにしています。

また、『運動習慣の継続を妨げるものが無いか』という点でも継続をサポートしていきます。(例:よくわからないがヤル気が起きない、とにかく時間がない、野球を運動習慣に取り入れたいが人数集めが億劫etc..)

筆者(きゃの)の運動習慣の例 (平日編)

上で紹介したような運動習慣の例として、少しSAC’s blueきゃのの運動習慣の話をさせて頂きます。(そんなに良い事例ではありませんが、ADHDコーチングを行っている手前、自分でも実践しているので参考になれば、、)

まず平日の場合ですが、普段は理系の会社でデスクワークがメインの仕事です。

朝は元気もあり、普段から目的や意図として心掛けている自分のキャリア達成に向けて活動的になれることが多いのですが、昼ごはん以降になると疲れ&眠気で集中力が続かなくなってしまいます。(全てが面倒に感じ、どうしても先延ばししてしまう)

そこで、体を動かす仕事(機械や実験道具の移動、屈伸運動を多く伴う備品整理など)を昼一の運動として取り入れることで、午後に頭のスイッチが入るようにしています。 (※それもできないくらい忙しい時はコンサータを飲んで補うこともあります。)

このように、生活や仕事で自然に行う運動をうまくスケジュールに取り入れることで、運動習慣を妨げるものなく継続することに成功しています。

筆者(きゃの)の運動習慣の例 (休日編)

趣味のテニスを週2回、2時間ずつ取り入れていたのですが、育児が始まってからこのリズムが完全に崩れました。

そのため、赤ちゃんを抱っこであやしたり、一緒にエクササイズできる教育ビデオを1日の中に数回取り入れることで、脳機能の低下を防止しています。(子供の教育が明確な目的としてあるので、意欲的に取り組むことができています)

一方で『超テキパキ動いて家の掃除をする』という方法も休日の運動に取り入れているのですが、こちらは逆に『掃除はたまにでいい』と考えている自分の本音が邪魔をして、興味や意図を保つことが難しいと感じています。(夫婦関係を良好に保つため、妻の基準である『最低でも週一の掃除』は必要なのは分かっているのですが、自分の本音やADHD脳は中々変えられない、、)

そこで、これは自分独自のやり方ですが、家事管理アプリと家事手順マニュアルを作って、掃除をゲーム感覚で消化するような仕組みを作りました。

このように、興味が持てない運動でも自分のやり方で上手く生活に取り入れる方法もあります。

さいごに

いかがでしたでしょうか。

運動によるADHD脳の症状改善効果(ドーパミン放出の一時的促進)は多くの論文で証明されており、運動を上手く生活取り入れることができれば、自分のADHD脳をうまくコントロールすることができます。

また、本記事の途中でADHDコーチング的な運動習慣の取り入れ方も紹介してみましたが、運動習慣を題材にセッションを受けてみたい方は、下のリンクから体験セッションを申し込んでみてください。

『自分にとって最適な運動習慣』はその人の個性や生活環境により様々なので、ADHDコーチングの中で一緒に探求していきましょう。

皆さまとコーチングでお会いできることを心待ちにしております。

参考文献

  1. Acute Effects of an Aerobic Exercise on EF and Attention in adult ADHD, 2019 (Aylin et al.)
  2. Understanding the Effects of Physical Activity on Executive Functioning and Psycho-Emotional Well-Being in Children with ADHD, 2020 (Hannah et al.)
  3. ADHD 2.0: New Science and Essential Strategies for Thriving with Distraction–from Childhood through Adulthood, 2021(Hallowell et al.)
  4. Acute aerobic exercise modulates cognition and cortical excitability in adults with attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD) and healthy controls, 2024 (Kuo et al.)
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