SAC’s blueのきゃのです。
ここでは、ADHDの当事者に有効と広く知られている認知行動療法について解説し、最後にはADHDコーチングとADHDの方への認知行動療法の違いについても解説していきます。
認知行動療法とは
認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy, CBT)とは、物事のとらえ方(認知)や行動に働きかけて、心理的な問題を改善するための実証的なアプローチで、1980年代以降その介入効果の高さによって注目を集めてきた心理療法です。
抑うつや不安を対象とした治療効果の高さで評価されるだけでなく、統合失調症、アルコール依存、薬物依存、摂食障害など、幅広い精神疾患や依存症に対しても有効性が認められています。
認知行動療法の基本的な考え方は、思考(認知)、感情、行動が密接に関連しており、これらのバランスを調整することで心理的な問題を改善できるというものです。
認知行動療法の考え方の簡単な解説
認知行動療法の大切な考え方は、「認知療法的アプローチ」と「行動療法的アプローチ」の2つの側面を合わせて構築されていうことです。それぞれ解説していきます。
認知療法的アプローチ
認知療法的アプローチは、否定的な認知を修正すれば、感情や行動に良い変化を促すことができるというものです。
認知療法を説明する上で、中心的な理論の一つにABC理論があります。このABC理論は、心理学者アルバート・エリスによって提唱された考え方で、人の感情や行動がどのように形成されるかを理解するのに役立ちます。

ABC理論は、人の感情や行動が「A(Activating Event: 出来事)」「B(Belief: 信念)」「C(Consequence: 結果)」の三つの要素によって決まると考えます。
A(出来事):外部で発生する事象や状況(例:上司に注意された)。
B(信念):出来事に対する個人の認知や解釈(例:「自分はダメな人間だ」と考える)。
C(結果):その解釈によって生じる感情や行動(例:落ち込んで仕事への意欲を失う)。
ABC理論では、「感情や行動(C: 結果)」は「出来事そのもの(A: 出来事)」ではなく、「その出来事に対する認知(B: 信念)」によって決まると考えられています。

つまり、否定的な認知( = B: 信念)を修正すれば、感情や行動の変化を促すことができるのです。
認知療法では、まず患者が自身の思考パターンを認識し、ABC理論の枠組みを使って不適応な信念(B)を特定します。その後、より合理的で柔軟な信念(B’)に修正することで、望ましい感情や行動(C’)を引き出すことを目指します。
行動療法的アプローチ
行動療法的アプローチは、具体的な行動を変えることで心理的な問題を改善することができるというものです。

先ほどの認知療法とは異なり、行動療法では、C(結果)を変えるために、B(考え方)を修正するだけでなく、直接行動を変えることを重視します。
行動療法の主な技法としては、曝露療法(不安や恐怖を感じる状況に少しずつ慣れることで恐怖反応を軽減する手法)、行動活性化(気分を改善するために行動を変える)、スキル習得(ソーシャルスキルトレーニング(SST)含む)などがあります。
なぜADHDに認知行動療法が必要なのか
理由① ADHDの方は失敗的な出来事に遭遇しやすい
ADHDの方は学業や仕事上での失敗、コミュニケーション問題などを一般の方よりも数多く経験しています。
「不注意が原因でミスをした」「スケジュールが上手く立てられなかった」「失言して相手を傷つけてしまった」など、シチュエーションは様々ですが、ADHDの症状が原因で認知行動療法が有効となる出来事に遭遇しやすいことが1つ目の理由です。
また、多くのADHDの方向けの認知行動療法プログラムでは、「先延ばし」「注意散漫」などのADHD症状に対処するためのスキル習慣に時間をかけて取り組みます。
理由② 否定的な認知によりADHD症状が悪化する
2つ目は、過去の失敗体験によって生じた否定的な考え方や信念がADHD症状をより悪化させるケースが多いからです。
多くのADHDの方々が数多く経験する失敗や問題は、脳内に否定的な思考やBeliefをもたらし、やがては過度な自己否定や低い自尊心を大人になっても引きずらせることに繋がります。
その結果、「不安でつい先延ばししてしまう」「罪悪感に囚われ注意散漫になる」といった、ADHD特有の症状をさらに助長・悪化させてしまいます。
この負のスパイラルを抜け出すために、認知行動療法によって効果的な対処方法を実践する必要があります。
ADHDの方に対する認知行動療法の特徴
特徴① 失敗的な出来事に対する認知療法の介入効果が大きい
ADHDの方は失敗的な出来事に遭遇する頻度の多さや、そこで生まれた否定的な認知がADHDの症状をさらに悪化させる負のスパイラルに陥っているケースが多いため、認知面に介入し当事者の不安やストレスを軽減するこの療法の効果は非常に大きいと考えられています。
抑うつや不安を対象とした認知行動療法と同様に、自身の感情の理解、認知の再構築(柔軟な思考を促す)などを促します。
特徴② ADHD特性に対する行動療法的トレーニング
ADHDの方を対象とした認知行動療法の中では、タスク管理の習得や環境調整など、ADHDの方が苦手とする計画・実行に対する土台作りが行動療法の中に含まれることが多いのが特徴です。
実施される行動療法としては以下があります。
時間管理訓練 | ・達成目標の設定 / 目標達成のための計画作成 ・タスクの洗い出しと優先順位付け(タスク管理) ・カレンダーによるスケジュール管理 ・メモやリマインダーの活用 |
注意持続訓練 | ・タイマーで集中できる時間の計測/持続化 ・頭に浮かんだ関係ないことをノートに書きだす |
環境調整 | ・作業場所を整える / 調整する ・アラームやリマインダー(付箋など)の活用 |
感情コントロール | ・アンガーマネジメントの習得 |
対人スキル向上 | ・ソーシャルスキルトレーニング (SST) |
ADHD症状への認知行動療法の適用例 ~先延ばし行動~
特徴①②を踏まえ、ADHD症状への認知行動療法の適用の具体例を「先延ばし行動」を例にとって解説していきます。
先延ばし行動の場合、認知的な回避や、完璧主義思考などが原因となっているケースが多くあります。
認知行動療法をメンタルクリニック等で受ける場合、基本的にはセラピストとの話し合いとホームワークを繰り返し実施することになります。
その繰り返しの中で、先延ばし行動のきっかけや理由 (大きな問題と衝突した、何から始めていいか分からない、興味が沸かないなど)を特定した上で、それが自分の認知にどう影響しているか考え、適応するためにどのような考え方を取り入れるか検討します。
最終的に、先延ばしの原因となっている課題を細分化し、行動計画に落とし込んでいきます。
一方、当事者自身が否定的な思考(自分や他人への罪悪感、無力感など)に囚われて、考えることもできなくなっている場合、先にカウンセリングを通じて気持ちを和らげていきます。
また、ADHDの方には言語的な説明だけでは理解が難しい場合があるため、図や表を活用して情報を整理することも重要となります。
ADHDコーチングと認知行動療法の違い
ここからは、ADD Coach Academyの分析に基づいた「ADHDコーチング」と「ADHDの方への認知行動療法」の違いについて解説していきます。
ざっくりまとめると以下表のようになります。
ADHDコーチング | ADHDの方への認知行動療法 | |
---|---|---|
目標 | ・自己成長 ・実生活の充実 (Well-Being) | ・ADHD症状や二次障害の軽減 ・適応的な思考・行動パターンの習得 |
アプローチ | ・クライアント中心のプロセス ・自己発見や成長をサポートする | ・医師や心理士の治療的アプローチ ・ADHD症状や問題行動の改善 |
セッション内容 | ・コーチからの質問やフィードバックを通じて気づきを促す | ・構造化されたワークによって認知の修正やスキル習得を促す |
クライアントとの関係性 | ・対等なパートナーシップ | ・治療者と患者の関係 |
効果 | ・ADHD脳を含めた自己理解の促進 ・実生活の質の向上 ・ADHD特性による課題克服 | ・思考の変容 ・行動の改善 ・ADHD症状の緩和 |
行動変容や自己理解の促進を目的とする点では同じ
これはADHDの方以外へのコーチングと認知行動療法にも当てはまる説明となりますが、ADHDコーチングと認知行動療法はどちらも行動変容や自己理解の促進を目的とする点では類似した性質を持っています。
ADHDコーチングでは、コーチからの質問やフィードバックを通じてクライアントの気づきを促し、自己発見や成長をサポートします。
一方の認知行動療法も、目標や手段は違えど、認知的アプローチやADHD症状に対するトレーニングによって適応的な思考・行動パターンの習得を目指します。
ADHDコーチングは「ADHD脳を含めた自己理解」「実生活の充実」に焦点を置く
ADHDコーチングでは、ADHD特性を持つクライアントが前に進むための支援として、自己理解や自己成長、実生活の充実を促します。
そのために、ADHDコーチングでは、コーチは質問やフィードバックを通じてクライアントの気づきを促す一方で、ADHDに関する知識を提供し、クライアントが自身の強みや注意の向け方を理解できるよう促します。
認知行動療法は「ADHD症状や問題行動の改善」に焦点を置く
認知行動療法の場合は、ADHD症状や精神疾患を緩和するための治療や、問題となっている行動の改善に着眼点がおかれます。
認知行動療法自体は、物事のとらえ方(認知)や行動に働きかけてストレスを軽減する心理療法であるため、メンタルクリニック以外でもその考え方が広く用いられています。
しかし、ADHDの症状を持ってメンタルクリニックなどで認知行動療法を取り入れたカウンセリングを受ける場合は、コーチングとは異なり「医師や心理士による治療」の位置づけとなります。
ADHDの症状や認知のパターンを分析し、心理社会的介入による認知の修正や、行動療法により実生活で使えるスキルを身につけ、クライアントが通常の生活を送れるようになることが目標となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この記事を読んで、認知行動療法がどのようにADHDの症状にフィットするのか、また、少し混在されがちなADHDコーチングと認知行動療法の違いについて、この記事を読んで少しでも理解が促進されましたら幸いです。
なお、SAC’s blueでは認知行動療法をプログラムとして提供しておりませんが、ここで解説したようにその知見はADHDコーチング中に取り入れられるものが多く、私きゃの自身も積極的に学習し活用しています。
認知行動療法による治療を受けたい場合は、是非お近くのメンタルクリニックを調べて頂いた上で受診してみてください。
また、SAC’s blueのADHDコーチングもこの機会に是非受けてみることを検討してみて頂けると幸いです!
コメント